Kitchen Science's Memorandum

YouTubeチャンネル”Kitchen Science”の動画で伝えきれなかったことをつらつらと書いてまいります。

「筍ごはんと中和反応~アク抜きの科学~」の補足その1 ~残った筍の使い方~

こんにちは、Kitchen Science料理担当、ほりけんです。

この記事は、「筍ごはんと中和反応」の動画の補足となります。本記事の前に、当該動画をご覧になることをおすすめします。


【料理 × 科学】筍ごはんと中和反応~アク抜きの科学~(筍ごはんの作り方)

さて、動画では筍をまるごと一本茹で、そのうち根元の部分を筍ごはんに使いました。では残りの部分をどうするのか、という点について、動画内では触れなかったため、この記事で解説していきます。

筍の使い分けと保存

皮を剥いた筍は、大きく三つの部位に分類することができ、それぞれの食感の違いによって使うべき料理も変わります。

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筍の使い分けイメージ図


動画でも使った根元の部分は、しっかりとした固さがあります。筍ごはんのほか、煮物などじっくり加熱し味を染み込ませられる料理に向いているでしょう。
反対に先端は柔らかく、また味に関しても比較的えぐみが少ないため、食べやすい部分です。天ぷらなど加熱調理する料理のほかにも、薄く切って和え物にしても美味しく召しあがれます。
その間の部分は中間的な性質を持つ万能型。煮物にも和え物にも、またサッと火を通す炒め物もおすすめです。

部位ごとに切り分けずに、縦に大振りに切ってグリルで焼いて、異なる食感が一度に楽しめる焼き筍にするのもいいですね。

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筍ご飯の残りは次の日に焼き筍にしていただきました

この大きな茹でた筍、一回で使い切ることはなかなかできないと思います。使いきれない部分については、清潔な容器に水を張り、その中に漬けて冷蔵庫で保存しましょう。毎日水を替えれば、4~5日程度は保つはずです。

姫皮

皮を剥いて取り出したこの中心部以外にも、忘れてはいけないのが姫皮です。動画内でも少し触れましたが、姫皮とは剥いた皮のうち、根元に近い柔らかい部分のことを指します。姫皮はとても柔らかいため、サラダなど生食にも向いています。

ちなみに「姫皮」という呼び名は、平安時代に貴族の姫が来ていた十二単に筍の何枚も皮が重なった姿が似ていることからつけられたという説もあるそうです。美しいやまとことばですね。

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これらの下側の色の薄いところが「姫皮」

筍の構造を生物学的に見る

筍の先端の方が柔らかいのは、その部分で生長が活発に起きているためです。新芽のように生まれたばかりの組織では、細胞分裂が頻繁に生じ、細胞壁も薄くなっています。

一般的に植物の先端は、根本の部分に比べて生長速度が速くなっています。「茎頂分裂組織」という名前は、高校で生物を習った方なら聞き覚えがあるのではないでしょうか。

ただし竹には他の植物と生長のメカニズムについて大きく異なる点があります。竹には無数の節があり、この節のそれぞれで細胞分裂が生じます。他の植物では先端でしか起きない生長が、竹では全体で行われているのです。竹の生長が早いのはこのためです。
この節の数は大体一本に60程度あるとされ、竹の一生を通して増減することはありません。筍も成長した竹と同じ数の節を持っているということです。筍の節の様子は、縦に割った断面を見るとわかりやすいですね。

竹も上に向かって生長する点は他の植物と変わりなく、繊維は垂直方向に走っています。青椒肉絲を作る際など、繊維の食感を残したい場合は、繊維に沿うように垂直方向に千切りにするのが理に適った調理法と言えます。逆に根本の部分から柔らかい千切りを作りたいならば、繊維を断ち切るように輪切りにし、それを細く切った方がよいということです。

参考文献

浜島書店生物図表Web「竹の子」(https://www.hamajima.co.jp/bio/2010/05/10/%E7%AB%B9%E3%81%AE%E5%AD%90/

「アイスクリームと凝固点降下」の補足その1 ~バニラエッセンス~

こんにちは、Kitchen Science料理担当、ほりけんです。

この記事は、「アイスクリームと凝固点降下」の動画の内容を補足するものです。
動画を未視聴の方は、先にこちらをご覧になることをお勧めします。


【料理 × 科学】アイスクリームと凝固点降下(かんたんアイスクリームの作り方)

さて、バニラアイスをバニラアイスたらしめる重要な材料がバニラエッセンス。
動画での登場は一瞬でしたが、この記事ではこのバニラエッセンスに焦点を当てます。

 

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今回の主役

そもそもバニラって?

バニラとはもともと、中央アメリカが原産とされるラン科の植物のことです。このバニラの種子を発酵・乾燥させたものに独特の甘い芳香があることが発見されて以来、香料の原料として使われています。
香りが出るようにバニラの種子を発酵させたものを「バニラビーンズ」と呼びます。乾燥して黒く細くなった鞘のなかには種子が詰まっており、この種子の香りを抽出したものがバニラエッセンスやバニラオイルなのです。

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某アイスのパッケージに描かれているのがバニラの花とバニラビーンズです。


バニラエッセンスとバニラオイル

バニラの香りを抽出する際、溶媒としてアルコールや水を用いたものがバニラエッセンス、油を用いたものがバニラオイルです。ちょっと大きなスーパーの製菓材料の棚には、大抵この二つは隣り合って置いてあると思います。二つを比べるとバニラオイルの方が高価ですが、価格の差は香りの強さが反映されたものではありません。では、どのように使い分けたらいいのでしょうか。
二つの溶媒の大きな違いは揮発性、すなわちどれだけ気化しやすいか、にあります。
アルコールや水は油に比べ揮発しやすく、特に加熱するとすぐに気体になり周囲に広がってしまいます。
よって加熱工程を含む焼き菓子を作る際は、バニラエッセンスを用いても香りが飛んでしまうため、バニラオイルを用いたほうが良いとされています。
一方で、バニラオイルには当然油が含まれるため、紅茶などの飲み物に香りを付けたい場合は油っぽさが気になることがあります。この使い方にはバニラエッセンスの方が適していると言えるでしょう。高い方を使うことが必ずしも正解とは限らないということですね。

バニラの香気成分「バニリン

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バニリンの構造式

バニラビーンズの香りは多種多様な化合物によるものですが、代表的な成分が「バニリン」です。
バニリンはアルコールにも油にもよく溶ける性質を有します。この化学的な特徴によって、私たちはバニラエッセンスとバニラオイルの使い分けが可能となっています。
ちなみに、バニリンはバニラから抽出されるだけでなく人工的な合成も行われています。現在用いられているバニリンの大半は人口的に合成されたものです。その方がコストがかからないからですね。今回私たちが動画に使ったバニラエッセンスも、合成されたバニリンを用いたものでした。
ただし、これは合成されたバニリンは粗悪品である、という意味ではありません。天然のバニラから抽出したバニリンも、人口的に合成されたバニリンも、化学的性質に違いはないのです。
なんとなくのイメージから、自然からのものは体に良さそう、合成された化学物質って危険なのでは…と感じる方は少なくないのではないでしょうか。料理をする際はそのような考えを一度捨てて、一つ一つの成分に対しても着目してみるといいかもしれません。

もっとも、前述の通りバニラにはバニリンの他にもさまざまな成分が含まれており、それによりあの芳しい香りが生じているのです。この点において、バニラから抽出したものと合成したバニリンとでは、やはり香りの質が異なるのは否定できません。

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今回用いたバニラエッセンスにも「バニラ」は含まれていません。


余談

この芳しい香りのもととなるバニリン、実は牛糞から作ることができる、という話は、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この「牛糞からバニリンを生成する」研究に対して、2007年のイグノーベル賞(「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」。ノーベル賞のパロディのようなもの。)の化学賞が送られています。ちなみに研究者は日本人の山本麻由氏です。
先ほどの理論で言えば、バニラの花からとったバニリンも、牛糞から作ったバニリンも、平等にみなバニリンなのです
……やっぱり理屈はわかっても受け入れられるかは別問題かもしれませんね……

さらに余談

カードゲームにおいて、能力を持たないモンスターのことを俗に「バニラ」と呼ぶことがあります。この呼び名は目立った特徴がないバニラアイスに見立ててつけられたものです。
もっとも、現実のバニラは前述の通り非常に高価な香料であり、バニラビーンズの重量当たりの価格は銀より高いとすら言われることがあります。
このような呼び名は、バニラに対して失礼かもしれませんね。

 

Kitchen Science 
料理担当 ほりけん

参考文献

ネスレアミューズ「1から始める料理の基本 - 用語辞典」(https://nestle.jp/recipe/from1/
朝日新聞「『バニラバブル』銀より高い アフリカ異変、日本も影響」(2019年8月27日)
イグノーベル賞公式サイト(https://www.improbable.com/ig-about/winners/#ig2007

ご挨拶

はじめまして、Kitchen Scienceです。

 

突然ですが皆さん、普段の生活の中で「なんとなく美味しくなりそうだから…」なんて思いながら料理されていませんか?
あるいは、「学校で習ったことなんて、ほとんど生活の中では役に立たないし…」など感じてはいないでしょうか。

一見縁遠そうに思える料理と科学、これらは密接に結びついているものです。
科学を知れば、いつもの料理がもっと美味しくなる。
料理をすれば、科学の勉強が身近に楽しく感じられる。
料理と科学にお互いの魅力を引き立てあってほしい。
私たちはそう考えています。

Kitchen ScienceはKitchen担当のほりけんと、Science担当のもとやすの二人で、皆さんに料理と科学の魅力を発信してまいります。
メインコンテンツはYouTubeの動画です。美味しい料理の紹介や身近な科学原理の解説を行っていますので、興味のある方は是非チャンネル登録をお願いします。

https://www.youtube.com/channel/UCOWipESMcAYAUZbpBJ42T_Q

このブログでは、動画で扱った料理や科学現象について、動画内で説明しきれなかったことやより詳しい内容の補足を行う予定です。
料理上級者や受験生にとっても読み応えのある記事を目指しますので、ご期待ください。

皆さんの暮らしと学びを少しでも豊かにすることができたら幸いです。

それでは、また次回。