調理師ガイドを勝手に補足その2 ~水分活性と自由水・結合水~
こんにちは、ほりけんです。
先日、YouTuberのはるあんさんが行っていた「はるあん秋のハムレシピコンテスト」に参加しました。(現在は応募終了)
応募に用いた投稿がこちら。
このレシピにも使われている生ハム。なぜ豚肉なのに生で食べられるのでしょうか?
投稿でも少し触れていますが、これには「水分活性」という概念が関係しています。
この水分活性について、前回から内容の補足を勝手にしているこちらの調理師資格ガイド(伊藤秀子・星屋英治著(2020)調理師’20年版 成美堂出版)にも記載がありましたので、合わせて解説していこうと思います。
それでは本編です。
食品中の水分(PART2 食品学 Section2 「食品の成分と特徴」より)
今回のテーマは「食品中の水分」です。
第一回も水についてでしたが、前回は「もの」としての水を扱っていたのに対し、今回の記事は「物質」としての水に焦点を当てるため、より化学的でミクロな話になります。
自由水と結合水
食品中の水分は大きく「自由水」と「結合水」の2つに分けられます。
これらの性質について、テキストから引用します。
「自由水・・・容易に凍結、蒸発する水。微生物が生育に利用。
結合水・・・0℃で凍結しない、100℃でも蒸発しない水。微生物の生育に利用されない。」
(前掲書 p.50)
この記述からは、微生物の生育に関係していて、つまり食品が腐りやすいかに関係していそうだということが推測できますが、定義としてはいまいち曖昧に感じられます。
これら二つは明確に区別できるようなものではないという考えもありますので、定義ではなく微生物による利用と状態変化という二つの性質から検討を進めてみましょう。
まずは微生物による利用について。
そもそも食品が腐るのは、微生物の活動によって食品の成分が変性させられるからです。
彼らが食べ物を腐らせるのは決して私たち人間を困らせたり害を与えようとしたりするためではありません。
微生物が生きるために必要な活動の結果に過ぎないのです。
とはいえ、好き放題に食べ物を腐らせると私たちが生きていけませんので、人間は食べ物を腐らせないようにする様々な方法を模索してきました。
ところで、結合水の「結合」とは、水の分子と水に溶けている物質(溶質)とで結ばれる水素結合のことを指しています。
水に塩(塩化ナトリウム)や砂糖(スクロース)、あるいはタンパク質が溶けると、溶媒である水分子と水素結合を形成します。
これにより水分子の運動が阻害され、微生物が利用しにくくなるのです。
水素結合などの詳しいメカニズムが解明されたのは近代に入ってからではありますが、とにかく水っぽさを減らすと食品が腐りにくくなると気付いた人間は、乾燥や塩漬けなどの手法によって保存食を生み出してきました。
水分活性
次に状態変化に関する話をしましょう。
0℃で凍結しない水、100℃で沸騰しない水と言えば、食塩水や砂糖水がすぐに思い浮かぶかと思います。
食塩水が0℃で凍結しない理由については、アイスクリームの動画で紹介しましたね。
【料理 × 科学】アイスクリームと凝固点降下(かんたんアイスクリームの作り方)
動画では詳しくは説明しませんでしたが、凝固点降下には蒸気圧降下という概念が強く関係しています。
(蒸気圧降下は液体⇔気体の変化における用語ですが、液体⇔固体の変化においても同様のことが言えます。)
話は変わりますが、前述のテキストには水分活性(Aw)という項目で以下のように記されています。
「水分活性とは、食品中の自由水の割合を示したものです。(中略)数値が0.65以下になると、ほとんどの微生物の生育が抑えられます。」
(前掲書 p.50)
自由水の割合、と言っても、先ほども述べた通り自由水と結合水は明確に区別できるものではありません。
それではどのように水分活性を計算するのかというと、蒸気圧を利用するのです。
水分活性Awは以下の式で表されます。
Aw=P/P0
ここでPおよびP0は以下の値です。
P:該当食品の蒸気圧、P0:純水の蒸気圧
この式を知っていれば、任意の食品の水分活性が測定できますね。作り置きのおかずを作るときは、水分活性が0.65以下になるように努めましょう。
…純水の蒸気圧はともかく、食品の蒸気圧なんてどうやって調べるのかって?
それはもちろん、水分活性測定器を使うのです。
某通販サイトにも売っていますので、一家に一台水分活性測定器、いかがでしょうか。
…11万円は高すぎる?そうですか…
冗談はこれくらいにして、高価な機械を使わずとも簡単に食品の水分活性を測る方法を考えてみましょう。
水分活性を求める式を見て、中学校の理科で習ったある公式を連想した方はいらっしゃるのではないでしょうか。
…蒸気の圧力の比で表される、相対湿度を求める式と似ていますよね。
詳しく言えば、相対湿度は、ある空気に実際に含まれる水蒸気の分圧と、その空気が含むことができる最大量の水蒸気の分圧との比(普通%を用いる)で表されるのでした。
ここで、ある空気が含むことができる最大量の水蒸気の分圧は、純水の蒸気圧と等しくなります。
同様に、密閉空間内に食品を置いておき、その空間の湿度を調べれば、食品の蒸気圧も分かります。
というわけで、湿度計を使えば、簡易的にではありますが食品の水分活性を調べることができそうです。
(ちなみに、先ほど紹介した水分活性測定器の原理もこの理論を利用しているよです。)
まあ、それが分かったところで、作った料理の水分活性を測るかと言えば、普通は測りませんよね…
余談
先ほど「作り置きのおかずを作るときは水分活性を0.65以下にするようにしましょう」なんて書きましたが、これは嘘です。
水分活性0.65といえば、ドライフルーツやキャンディーが程度の値です。。家で作る常備菜なら、せいぜい0.9くらいが限度かと思います。
何が言いたいのかと言えば、工業的に生産するような商品ならともかく、家庭での料理では水分活性の値なんてそんなに気にするべきものではないということです。
参考文献
あいち産業科学技術総合センターニュース 2014年11月号「食品中の水分活性について」
http://www.aichi-inst.jp/other/up_docs/no152_03.pdf
日本食品分析センター「水分活性について ~食品の保存性パラメーター~」