Kitchen Science's Memorandum

YouTubeチャンネル”Kitchen Science”の動画で伝えきれなかったことをつらつらと書いてまいります。

「ぎりチョコレート」の補足 ~より正確な『チョコレート』の定義~

こんにちは、ほりけんです。
バレンタイン前に、ぎりぎり「チョコレート」の定義にあてはまるものを「ぎりチョコ」と言い張る動画を投稿しました。
こちらです。


【バレンタイン】ぎりチョコレートを作る。【アーモンドガナッシュ】

この動画で伝えたかったことは、「何かを議論するためにはまず土台となる定義付けが重要である」ということでした。
なぜこれが大事なのかと言えば、そもそもの定義付けの段階で認識に違いがあると、議論もままならくなるからです。
チョコレートというなじみの深いものでも、その定義となると意識しないことがほとんどかと思います。
チョコレートの定義の齟齬で問題が発生することはまあないでしょうが、あくまで例えばの話です。

さて、動画内の解説で、「詳しくは概要欄のブログで解説します。」と書いておきながら、長らく放置しておりました。
申し訳ございません。
バレンタインどころかもうすぐホワイトデーになってしまいますので、急いで補足説明をしていこうと思います。

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「『チョコレート』の定義」とは

動画内で「『チョコレート』の定義」として取り上げた「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」とはこちらのものです。

https://www.jfftc.org/rule_kiyaku/pdf_kiyaku_hyouji/chocolate.pdf

これは景品表示法に基づき、消費者庁が定める団体が制定する「公正競争規約」のうちの一つです。
単にチョコレートとは何か、というだけの内容ですが、23ページにも渡る長大な内容になっています。
同じような語句が繰り返され、なかなか理解に時間のかかるものになっています。
じっくり腰を据えて見ていくこととしましょう。

「チョコレート類」とは

第二条(定義)の第一項にて、「チョコレート類」の定義が定められており、「チョコレート」などの8つの要素からなることがわかります。
(余談ですが、法律などの条文はくくりの大きい順に条>項>号といいます。またそれぞれの文には普通頭に数字が振られますが、第一項の"1"は省略するのが通例です。)
動画における「チョコレート」とは、具体的にはここで述べられるチョコレート類のうちの一つである、この「チョコレート」のことです。
次の項にて、「『チョコレート』とは、チョコレート生地のみのもの及びチョコレート生地が全重量の60パーセント以上のチョコレート加工品をいう」と定められています。また見覚えのない単語が出てきましたね。

「チョコレート生地」は以下の要素を満たすものと定義されます。すなわち、
・カカオ分が全重量の35パーセント以上
ココアバターが全重量の18パーセント以上
・水分が全重量の3パーセント以下
・カカオ分が全重量の21パーセントを下らない
ココアバターが全重量の18パーセント以上
・カカオ分と乳固形分の合計が全重量の35パーセントを下らない
・乳脂肪が全重量の3パーセント以上
・カカオ分の代わりに、乳固形分を使用することができる

このうち一番目のカカオ分の比率に関する基準が動画で取り上げたものです。
実際にはこのように他にも条件があるのですが、動画では割愛しました。あくまでジョーク動画なのでご容赦を。
これらの条件を満たした「チョコレート生地」を規定の通り使用(ナッツを練りこんだり包んだり)したものが「チョコレート加工品」となります。

繰り返しになりますが、「チョコレート」とは、カカオ分の割合などの基準を満たした「チョコレート生地」だけでできたものか、「チョコレート生地」を一部使用した加工品のこと、となります。
より厳密にいえば、チョコレート生地より純度の低い「準チョコレート生地」に言及したり、ココアバターやカカオ分など各項目の中身について詳しく見る必要がありますが、あまりに冗長になりますしこの記事の本筋からは離れるので割愛します。

チョコレートっぽいけど「チョコレート」ではないもの

さて、ここからがこの記事でお伝えしたいことです。
例えばこちらの商品を見てみましょう。 

いわゆるトリュフチョコレートですが、裏面のラベル画像を見てみると、名称の欄は単に「菓子」になっています。
「チョコレート」ではないのは、この製品が規格に満たないからです。
原材料を詳しく見ると、最も多いものが植物油、次いで砂糖となっています。
一方チョコレートに必須のカカオ分はといえば、低脂肪ココアパウダーが3番目に位置しています。
原材料名は含まれる分量が多い順に記載されていることを考えると、これが「チョコレート」の規格に満たないことがわかります。

ちなみに、規定の基準を満たすものは名称に「チョコレート」とあります。為念。 

明治 ミルクチョコレートBOX 120g×6個
 

 これらのチョコレートっぽいけど「チョコレート」ではないものも、ぱっと見ではチョコレートと見分けがつかないですよね。Amazonの商品区分もチョコレートですし、スーパーでもチョコレートと書かれた売り場に置いてあることでしょう。

公正競争規約に反して実際よりも良いものに見せかけることを「優良誤認表示」と言います。このチョコレートっぽいけど「チョコレート」ではないものをチョコレートといって売ることは、優良誤認に当たるのではないでしょうか。

消費者庁ガイドライン「事例でわかる景品表示法」を参考に見てみましょう。引用します。
景品表示法では、商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際のものや事実に相違して競争事業者のものより著しく優良であると一般消費者に誤認される表示を優良誤認表示として」いますが、この「著しく」とはどの程度のものを指すのでしょうか。引用を続けます。
「この場合の『著しく』とは、誇張・誇大の程度が社会一般に許容されている程度を超えていることを指します。そして、誇張・誇大が社会一般に許容される程度を超えるものであるか否かは、当該表示を誤認して顧客が誘引されるか否かで判断され」るとしています。
トリュフチョコの例でいえば、規格が定めるチョコレートの基準を満たさない商品に「チョコレート」と表示されており、消費者がそれを判断基準として選択しうるものであれば、「著しく」優良であると誤認させるとは言えないのではないかと思います。
買い物の際に表示を見て「チョコレート」であることを必ず確認する人がいないとは思いませんが、どちらかと言えば少数派なのではないでしょうか。
もっとも、法律によって定められている「社会一般」がどの程度の割合を指すかも明確ではないですが…

ただし、第5条(不当表示の禁止)にて、「チョコレート菓子、準チョコレート又は準チョコレート菓子に商品名としてチョコレートを意味する文言を表示する場合(中略)又はテレビ、ラジオ若しくはネオン・サインにより商品名としてチョコレートを意味する文言を表示する場合を除」き、規格と異なるものと誤認されうる表示はしてはならないと定められています。
ただの「菓子」の商品名に「チョコレート」と含めるのは流石にいただけないようです。
関係ないですが、テレビと一緒にラジオやネオン・サインが並んでいるあたり法律ができた時代を感じます。

終わりに

「定義付けは重要」というテーマの動画のはずが、なんだか曖昧な話ばかりになってしまいました。
景品表示法における優位性の判断主体が一般消費者というふわっとしたものである以上、「時と場合による」としか言えない状況がどうしても発生してしまうのです。
とはいえ、明確な定義付けをしないと話がややこしくなる、ということは身をもって示せたのではないかと思います。