Kitchen Science's Memorandum

YouTubeチャンネル”Kitchen Science”の動画で伝えきれなかったことをつらつらと書いてまいります。

「伊勢海老のカンジャンセウ」の補足その1 ~食中毒予防についてもっと詳しく~

こんにちは、ほりけんです。
この記事は「伊勢海老のカンジャンセウ ~食中毒には気を付けよう~」の動画の内容を補足する内容となっています。
動画を未視聴の方は、先にこちらをご覧ください。


【贅沢に】伊勢海老のカンジャンセウ ~食中毒には気を付けよう~

今回の動画の解説編は、いつもと調子を変えたものにしてみた結果、その分内容がかなり簡単になってしまいました。
一方で、扱ったテーマは「食中毒予防」と、いつも以上に正確性が求められるものでしたので、動画で伝えきれなかった分をブログでしっかり補足をしていこうと思います。
なお今回のブログ及び動画の内容は、厚生労働省のホームページを参考にしております。

それでは参ります。

食中毒の原因

動画では専ら細菌性のものについて述べましたが、食中毒を引き起こす要因は他にもあります。
細菌性食中毒が夏にリスクが高まるのに対し、冬に怖いのがノロウイルスに代表されるウイルス性食中毒です。
また動物や植物が持つ自然毒や、アニサキスなどの寄生虫による食中毒があります。

ちなみに、何かと悪者扱いされがちな「菌」ですが(厚生労働省のHPにも「食中毒菌を付けない・増やさない・やっつける」とあります)、実際は菌・細菌・ウイルスは全く異なるものです。さらに言えば、食中毒の主な原因となるのは細菌とウイルスです。
簡単に言えば菌はヒトと同じ真核生物(細胞に核がある生物)であるのに対し、細菌はより小さい原核生物(核を持たない生物)です。またウイルスはそもそも生物ですらありません。
とはいえ、細菌性食中毒予防の三原則に基づいた食中毒対策は、基本的にウイルスや菌にも通じるものではあるので、季節や扱う食材にかかわらず常に心掛けていただきたいと思います。

ちなみに、それでは菌による食虫毒にどういったものがあるかというと、毒キノコによるものがそれに当たります。
ほとんどの毒キノコは加熱しても食べられませんので、その点は十分ご注意を。

細菌性食中毒予防の三原則おさらい

それではここからは、細菌性食中毒予防の三原則ひとつひとつについて、具体的にどういったことをすればよいのか見ていきましょう。

1.付けない

食中毒の原因となる細菌やウイルスを食べるものに「付けない」。
そのためには、まず第一に料理前には必ず手を洗いましょう。
また肉や魚を扱ったあと、その包丁やまな板などの調理器具で他の食材(特に加熱せずに食べるもの)を調理するのも危険です。
政府広報によれば、都度洗浄することはもちろん、可能であれば殺菌することも推奨されています。

また料理の残りを保存容器に移す際は、その容器も清潔でなければいけません。
ジャムなど瓶詰めのものを作る際、瓶を煮沸するのも消毒のためです。

2.増やさない

細菌を「増やさない」。
食中毒の原因となる細菌は、気温や湿度が高いと活発に増殖するようになります。
増えれば増えるほど食中毒のリスクが高まるため、様々な方法で細菌の活動を抑制する必要があります。
最も効果的なのは低温に保つことで、冷蔵・冷凍が必要な食材は必ず冷蔵庫および冷凍庫に保管しましょう。
もちろん、低温で保存しているからといって細菌の増殖が完全に抑制されるわけではないですから、過信しすぎることなく生ものは早めに食べきりましょう。

料理の残りを保存容器に移すのは、細菌を増やさないためでもあります。
特にカレーなどの大鍋料理では、そのままだと冷めにくく、細菌が繁殖しやすい状態が続くことがあります。
保存容器に小分けにすると、暖かい料理が早く冷め、細菌の活動を抑えることができるのです。
もちろん、粗熱が取れたら、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れましょうね。

なお、生物でないウイルスは基本的に食品内で増殖することはなく、また少量でも食中毒のリスクが高いため、「増やさない」は適用されません。
(ウイルスは他の生物の細胞内器官を利用しなければ増殖できないので、死んだ生物の肉に付いたとしても増えることはできないのです。)
自分の健康状態を把握し、調理場にウイルスを「持ち込まない」、万が一持ち込んだとしても、ウイルスを食品や調理器具に「広げない」といった対策が必要です。

3.やっつける

細菌やウイルスを「やっつける」。
最も効果的な手段は、やはり十分な加熱です。
特に肉料理においては、以前低温調理の記事でも書いた通り、基本的には「中心部を75℃で1分以上」の加熱が目安となります。

小分けにして冷蔵庫に入れていた作り置きの料理についても、保存中に細菌等が増えていることが考えられますから、食べる前にはしっかり温めなおす必要があります。

総括に代えて

では、ここまで振り返ってきた内容を基にして、伊勢海老のカンジャンセウ作りで殻ごと漬け込まなかった理由を詳しく述べていきます。

まず今回は生のまま食べる料理ですから、加熱による消毒は望めません。
細菌を「やっつける」ことができないわけです。
(最後に飾った頭は念のためバーナーで表面を焼いてはいました。)

丸一日漬け込む間、冷蔵庫に入れておくことでできるだけ細菌を「増やさない」ようにはしましたが、もともと付いている量が多ければ食中毒のリスクは高くなります。

というわけで、いかに細菌を料理に「付けない」かがカンジャンセウを安全に作る肝でした。
一緒に漬け込んだ赤エビは殻がツルツルしていたため、アルコールを含ませたキッチンペーパーで拭けば表面の消毒は十分だと判断しました。
しかし伊勢海老に関しては、見ての通り突起が多く表面の消毒が難しかったため、やむを得ず剥き身にして漬け込むことにした、というわけです。

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これから暑くてジメジメした夏が始まります。
食中毒に気を付けた調理を行い、安全な食生活をもって乗り越えていきましょう!

参考文献

厚生労働省「食中毒」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html

政府広報オンライン「食中毒を防ぐ3つの原則・6つのポイント」
https://www.gov-online.go.jp/featured/201106_02/index.html